【インタビュー】 丁子屋 十四代目 柴山広行さん
ただ食べてもらう関わりだけでなく
より深くより楽しく静岡のとろろ文化を伝えたい。
慶長元年創業、400年以上の歴史を持つ静岡随一の老舗「丁子屋」。名物のとろろは今も昔も数多くの旅人たちに愛され毎年世界中から観光客が訪れる、言わずと知れた静岡の観光スポットです。
そんなお店では10年ほど前から不定期にこのバックヤードツアーを企画して開催し、とろろの美味しさだけでなく東海道の歴史や魅力、そして丁子屋の想いを伝える取り組みを始めています。
十四代目として老舗の看板を守る柴山広行さんにバックヤードツアーに対する想いを伺いました。
このバックヤードツアーでは自然薯畑から自然薯を擦ってとろろを完成させるという、とろろづくりの全工程を丸ごと楽しめる流れになっています。自然薯の育つ環境、味噌蔵で感じる発酵する味噌の香り、魚の煮汁から作る秘伝のタレと、焼津産のかつお出汁、そして自然薯の擦った香りや手に残るかゆみまで、美味しいとろろ汁をご自身で仕上げて味わってもらう楽しいプログラムになっています。
しかし真の魅力はこの丁子屋に散りばめられた歴史の宝を紐解き、とろろづくりと共に丸子や東海道の歴史を知っていただくことにあると思っています。そこにこそとろろづくりの本質や歴史深さがあることを皆さんに知っていただければとこのツアーを企画したのです。
視点が変わることの面白さ
楽しむことが自分事になり大切なことになっていく
1596年の創業から、丸子で愛され続けてきたとろろを丁寧に作り続けてきたのが丁子屋です。歌川広重の浮世絵に描かれている風情のあるとろろ屋であり続けることは、歴史と未来をつなぐ大切な役目だと感じています。
この歴史深い風景は私が幼いころから当たり前にありました。しかし私も昔からこの風景と歴史が好きだったわけではありませんでした。この丁子屋で働く中であらためて歴史を知ることになり、そして歴史を知ると歴史文化の中に在る風景の美しさを楽しめるようになっていった、そうして歴史が好きになったのです。楽しむことが自分事になり、大切なことになっていった。それはまさに“視点が変わる”ということなのだと感じました。
つまり触れなければその魅力の本質がわからない、反対に触れていくことで面白さや美しさが本当の意味で理解できるのだと思うのです。
例えばですが十返舎一九は東海道中膝栗毛の中で弥次さん喜多さんにとろろを食べさせることはしませんでした。それを不憫に思ったかどうかはわかりませんが、約30年後に今度は歌川広重が東海道五十三次の丸子宿の浮世絵の中で、弥次さん喜多さんを思わせる旅人二人に存分にとろろを食べさせています。真偽はわかりませんがこんなエピソードを知るだけで歴史はぐっと面白くなり、十返舎一九や歌川広重に対する想い、丸子に対する想いが深まっていくのだと思います。
歴史を未来につないでいく
共感者(仲間)を増やしたい
このバックヤードツアーが歴史の本質を知るきっかけとなり、共感する仲間をつくる特別な機会となっていけば嬉しく思います。丸子の歴史を知ることで自分の町の歴史や文化をあらためて楽しんでもらえるような。現にこの10年あまりで東海道をつなぐかけがえのない仲間が数多くできていて、さらに未来に向けて発展したプログラムがいくつも進行中だったりします。
美味しいとろろを召し上がっていただきたいことはもちろんですが、多くの共感者と未来に向けた話をたくさんできることが私の何よりの願いです。