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静岡の要素

MUSIC inn Fujieda 施主検査完了

昨年ミュージシャンの後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)を創立者とする「APPLE VINEGAR -Music Support-」が開催した、静岡県藤枝市に滞在型音楽制作スタジオ「MUSIC inn Fujieda」を建設するクラウドファウンディング。クラウドファウンディングは目標を見事に達成し、スタジオ建設計画は着々と進んでおりました。
9月22日。竣工前の施主検査が完了し、その中を見ることができるということで伺ってきました。

かつて藤枝宿と呼ばれ栄えた藤枝市の旧東海道。近くにある大慶寺の久遠の松は静岡市・藤枝市が選定された日本遺産の構成文化財の一つとなっています。
この道の裏路地に築約130年の土蔵を改装したスタジオ「MUSIC inn Fujieda」がありました。

きょろきょろしながら裏路地の辺りを見回すと、綺麗に改装された土蔵。このあたりは旧東海道でありお茶の産地でもあることから、蔵自体はめずらしいものではありません。普段は見落としてしまうほどに。
ただこのスタジオからはエネルギーというか息吹がみなぎり、これから何かが始まるという期待を纏っていて、静かに佇みながらも異質な雰囲気を感じました。

スタジオ部分以外には足場の掛かっているところもあり、全体としての完成はまだ少し先の印象。その少し先の話を後藤さんに直接伺いながら、音楽スタジオがここにできることでの「可能性」が私も少し具体的に共有できました。
エネルギーの正体。スタジオ入り口にはたくさんの靴。中ではプロフェッショナルのみなさまが集まり音響の確認。私がこれまで居たことのない世界に、少しだけお邪魔させていただきました。

ドラムセットをスタジオに配置し、音響を確認。スタジオ外の環境から内部の状況により微妙に変わる音。チェックに余念がありません。
スタジオ内は出入り口のドアと奥の壁で音が反射を繰り返す「フラッターエコー」を防ぐために奥の壁の下部を少し傾けたりするなどの工夫が細部に施されいているそう。
ここは、天井が高い「土蔵」の特性を活かした「楽器の演奏を良い音で録音できる」スタジオ。滞在したミュージシャンが最大のポテンシャルを吹き込む場なのです。
聴く側でしかなかった私は想像すらしていませんでした。

ドラムセットはまず左側に設置しその音を確認。音楽スタジオの、しかも目の前での演奏に立ち会ったことのない私には腰を抜かすほどの迫力。実際立っているのがやっとなほど。
その音の性質などに耳を傾ける余裕などなかったのですが、そこにいるスタッフのみなさんは噛み締めるように音を見極めていました。

今度はスタジオ右側にドラムセットを設置し、音を確認。後藤さんも実際にドラムを叩きながらその質や反響などを確かめていました。
「こうすると、こうなる」「これをするともっときっと良くなる」
そんな話を皆さんでされながら、同時にこのスタジオでのルールも明確になっていきます。
ミュージシャンとつくる、ミュージシャンのスタジオであり
地域とつくる、地域のスタジオ。
このスタジオがここにあり続け、この地の文化になっていくように。
そんな皆さんの願いが伝わってきました。

外への音漏れについては、何度も、何度も。特に慎重にされていました。
現在Dr65〜75という目標値を達成しているそう。自動車の通行がある時間帯ではその音に掻き消されて演奏の音は聞こえないレベルに。ドラムやベースの演奏は交通量のある時間帯を中心に据え、夜間の演奏時間を制限するなど、近隣の皆様に安心していただけるスタジオをしっかりと目指していました。

クラウドファウンディングが充実したこともあり、コントロールルームは隣の部屋に移すことができ
スタジオのスペースを大きくできたことに、後藤さんはとても感謝をしていました。
だからこその責任もしっかりあると。

私自身結局音楽のことはわからずじまいの取材でしたが、音楽スタジオがここにできることの意義とその可能性については少しだけ理解ができ、多くの可能性を感じました。
ただただ想像し、眺めているだけで時間が過ぎ
少しだけ夕陽を帯びたスタジオは、すでにこの地に馴染んでいるように見えました。

このMUSIC inn Fujiedaは2026年1月にプレオープンを予定しているとのことで、現在はAPPLE VINEGAR ミュージックサポーターを募集しています。ご興味のある方はこちらをご確認ください。
これから先の藤枝、楽しみです。


文:花澤啓太(株式会社アンノット

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